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第83話 

彼は微かに驚いた。「会社のこと、お前は……知っているのか?」

「ええ、今日知ったばかりだけど」

私は軽く肩をすくめようと思ったが、力が全く入らなかった。「だから、あなたがした選択を変える気はないんでしょ?」

彼が江川アナを再び注目させることを惜しむわけがない。

やはり、彼の表情は少し硬くなった。「彼女の子供の状況は楽観視できないんだ。刺激を与えるわけにはいかない。でも、安心してくれ、状態がよくなったら、もう君に不快な思いをさせないから」

「……」

本当にその上辺だけの空っぽの話を聞いて、数十年先まで失望してしまうわ。

悲しみを抑え、がっかりした表情で彼を見つめた。「じゃあ、私がもし妊娠して彼女よりもさらにひどい状況だったとしたら?」

ここに立っている一分一秒、下腹部の痛みと下半身の湿りを感じた。

だが、私の夫は彼の想い人が刺激に耐えられないからといって、私には我慢しろと言うのだ。

つまり私には元々全く価値のない人間だから、我慢するしかないというのか。

江川宏は身体を微かに硬くし、すぐに苦笑いを浮かべて言った「お前も彼女と同じように幼稚になったのか?」

「何ですって?」

「安全日以外の日にゴムなしでやったことがあるか?お前が妊娠なんてするわけないだろ」

突然、どこからともなく冷たい風が吹き込んできて、骨までその寒気が沁みるのを感じた。

私の心臓は震え、声もかすれていた。「あなたはただの一度も私達に子供ができるって思わなかったの?」

彼は眉をひそめて言った。「お前、子供がほしかったのか……」

「もういいわ」

私は突然自分の感情を抑えられなくなり、冷たい声でスパッと切り捨てた。「時間があるって言ったわよね、午後さっさと手続きを済ませましょ」

江川宏は瞬時に顔を曇らせて言った「時間がなくなった」

「今日時間がないなら、明日にしましょう」

私は唇を噛みしめ、ゆっくりと口を開いた。「明日の午後、役所の前で待ってるわ」

「それなら、昼、どうしても離婚するっていうなら最後の晩餐といこうじゃないか」彼は視線を下にし私を睨みつけた。

泣きそうになりながら、私は首を振った。「どうせ別れる身、思い出なんてこれ以上必要ないわ」

言い終わると、エレベーターのドアが開いた。私は彼をもう一度見る勇気もなく、後ろを向きエレベーターに乗り込んだ。

……

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